難民危機で日本の果たせる役割-受け入れは社会に恩恵も
日本は難民支援に多額の拠出を表明しているが、昨年の受け入れはわずか11人
【寄稿】 By JEFFREY W. HORNUNG AND PAUL MIDFORD
2015 年 11 月 4 日 16:37 JST wsj.com/articles/

画像トルコとの国境に殺到したシリア難民 PHOTO: UMIT BEKTAS/REUTERS
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世界の富裕な民主主義国家の中で、難民受け入れに関して日本は離島のような状況にある。昨年、日本政府に対する難民申請件数は過去最高の5000件となったが、承認されたのは11件にとどまった。

 一方、ドイツは3万3000人以上の難民を受け入れ、米国は2万1000人超、英国でも1万人以上を受け入れた。日本と比較して国土や人口が格段に小規模な韓国でさえ、87人の難民を受け入れた。

 ただ公平を期すなら、日本は違った形で積極的に難民を支援してきた。1990年代の終わりから2000年代初めにかけて、日本政府は避難民支援のため、東ティモールとアフガニスタン、イラクに自衛隊を派遣した。また、1994年にはルワンダ難民のための人道支援活動に自衛隊から283人を派遣した。しかし、これらは一時的な任務であり、最後に行われたのは10年以上も前のことだ。

 それ以降も日本は、国連をはじめ、難民や移民を支援する国際団体に巨額の資金援助を行ってきた。2014年には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対し、2億ドル(約242億円)近い援助を行った。直近では、安倍晋三首相がシリアとイラクでの難民危機に15億ドルを拠出すると約束した。さらに、イスラム国(IS)対策で2億ドルの非軍事支援も表明している。

 これらは全て貴重な貢献だが、結局のところ、札束外交にすぎない。安倍首相が主張するように国際安全保障で一段と積極的な役割を果たしたいのであれば、日本政府は現在の難民危機に対して異なる方法を取る必要がある。

 日本国内では、社会と政府の両方のレベルで課題が存在する。例えば、難民の大量流入となれば、民族的にも文化的にも混乱が生じかねないとの懸念がある。1951年の国連の「難民の地位に関する条約」で挙げられた迫害について、日本政府が認める数は引き続き非常に限られている。

 日本は意欲的な受け入れ目標を設定すべきだ。真の人道支援につながるとともに、日本の平和憲法と安倍首相が掲げる積極的平和主義を完全に後押しするような目標である必要がある。年間1000人の受け入れという目標を掲げれば、国際的水準からすれば引き続き少ないものの、西側同盟国との負担分担に対する日本の真のコミットメントを示すことになろう。

 安倍首相は最近、日本には「人口問題」として、難民受け入れの前に出生率を上げていく必要があるとの考えを示した。しかし、同じように高齢化の問題を抱え、日本以上に速いペースで人口減少が進むドイツは今年、80万人の移民・難民を受け入れる見通しだ。この数はドイツの人口の1%に相当する。また、スウェーデンは19万人を受け入れる見通しで、これは人口の約2%に相当する。

 日本では既に、外国人の増加に加え、韓国人や台湾人をはじめ日本人以外の民族的背景を持つ市民や親が日本人以外の市民が増えているが、社会の同質性は引き続き極めて高い。ただ人口が1億2500万人を超える日本に年間1000人の難民を受け入れても、社会の同質性への影響はほとんど皆無だろう。日本に長期にわたって暮らす他の多くの外国人と同様、こうした移民・難民、特にその子供たちは日本に対して感謝の念を抱き、時間とともに日本社会に溶け込んでいくと思われる。

 もちろん、日本が誰に対しても門戸を開放すべきだと言っているのではない。難民申請者が国家の安全保障をリスクにさらすことなく、また、日本社会に溶け込む意向があることを確認するために、当局は慎重に審査すべきだ。しかし、これは、人道危機で難民受け入れという道徳的責任を果たすだけではなく、こうした難民が日本の社会や経済に真の貢献をできるかどうかを検討する機会でもある。難民は「高齢化の進む社会では特に、経済的には社会への負担以上に貢献のほうが高い」。こう語ったのは、国連児童基金(ユニセフ)のアンソニー・レーク事務局長だ。

 もちろん、現在の難民危機に日本が貢献できる他の方法もある。例えば、日本の沿岸警備艇は、危ない船で地中海を渡ろうとする移民・難民の救助を支援することも可能だろう。

 しかし、世界の表舞台での日本の新たな役割を主張し続けるのであれば、安倍首相はまず日本の難民政策の変更から始めるべきだろう。日本が世界中の多くの地域との関係を深める上で、移民・難民の定住が役に立つ可能性もある。こうした人々の出身国や地域との人的絆が構築できるからだ。こうしたつながりは長期的に見れば、社会的、文化的、そして恐らく経済的な恩恵を日本にもたらすことになろう。

(執筆者のジェフリー・ホーナン氏は米ワシントンDCに本部を置く笹川平和財団米国の研究員。ポール・ミッドフォード氏はノルウェーのトロンハイム市にあるノルウェー科学技術大学(NTNU)の政治学教授で日本プログラムのディレクター)
(記事引用)