世界はシリコンバレーを中心に動いている
ヘタをすると既存産業は惨敗してしまう山田 俊浩 

山田:シリコンバレー的なメソッドを日本にうまく適合させていくのが日本型イノベーションだと思います。これは日本特有でしょうか。ほかの国の企業のシリコンバレーに対する目線はどうなっていますか。

伊佐山:今の瞬間を見ると、日本からの注目度が圧倒的に高いと思います。でも、その様子をみてドイツや北欧の国の役人や企業が関心を持ち始めています。シリコンバレー的ノウハウを取り入れることが必要だと考えるようになっているのは、日本だけではありません。
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シリコンバレーは変わりつつある

僕が感じているのは、シリコンバレーが変わりつつあるということです。これまでのシリコンバレーはクラウド側、インターネットを中心に据えていた。その前は通信や半導体が中心だったことを考えると、シリコンバレーは、一度、通信や半導体からインターネットへと注目がシフトした。そして今は自動車、機械、医療などあらゆる場所にインターネットががっちりと組み込まれていく時代になってきた。既存の産業にとってみれば、何もしないでいればグーグル、アップルに全部持っていかれてしまう、という危機意識がある。

グーグル、アップルがパソコンやスマホだけやっているときは、誰も脅威に思っていなかった。でも彼らがインターネットを使って、既存のビジネスに食い込んできた。要するにドローンを飛ばしてデータも取る、農業もやる、車も作る、という具合に。

次々に既存の巨大な産業に首を突っ込み始めたときに、初めて大企業も危機感を持ち始めるわけです。このまま座っていると、全部シリコンバレーに本社を構えている会社に、彼らの資本力でやられちゃうぞ、という恐怖心です。もちろん、コマツのようにしっかり対応している会社もありますが、製造業を中心に多くの会社は自分たちの事業にインターネットのDNAを組み込むことができない。既存の産業にインターネットが組み込まれるうえで象徴的なのがIoTやIndustrial 4.0の動きです。
もう1個の流れはインターネットの上に蓄積されているデータが洗練され、使えるようになってきた。今から20年前にヤフーやネットスケープが上場したぐらいの頃は、ある意味ではインターネット上にはゴミみたいなデータがいっぱいあった。それをグーグルのような会社が、きれいに検索できるようにした。

それでもいっぱいゴミがあった。しかし、いろいろな紆余曲折を経て気づいたらインターネット上の情報っていうのは、とてつもないリッチな情報になっていたわけです。今そこに、AIとか機械がどんどん学習できるような時代になってしまうと、たぶん既存のサービス業、たとえば銀行、証券、保険などの金融ビジネスが大きな影響を受ける。つまり、これまでは専用のデータベースや独自のノウハウを使用することで手数料を取っていたビジネスモデルが成り立たなくなる。

これは衝撃的です。金融業の強さは、銀行で言えば信用調査、審査部がいろいろな調査をして、この人がどのぐらい信用できるか、おカネを貸しても大丈夫かというチェックをする機能が銀行の強みだった。保険であればアクチュアリーみたいな、統計的なデータを使って保険料率を設定できる機能が、ほかにはまねのできないものだった。ある意味では情報戦だったわけです。

気づいたらインターネットのデータのほうが実は信用できるし、情報量も豊富になっちゃった。今は逆転しつつある。そのことになんとなく気づき始めた今、フィンテックブームが起きています。その意味で、すべての金融機関は危機感を持つべきです。

個人の取引データであっても公共のもの

山田:米国では個人の取引データの多くが、インターネット上で検索可能になっている。公共のデータになっていますね。

伊佐山:そうです。米国の場合、一歩先に行っている。犯罪履歴、購買データ、不動産の取引データなど多くがパブリックデータになっている。僕が買った家がいくらで売られたかとかも全部検索できてしまう。そうしたデータを集めるだけで、今ここに住んでいる人はどれぐらいの資産持っているか、どういう売買をしてきたかがわかるわけです。それとLinkedIn(リンクトイン)やFacebook(フェイスブック)に掲載しているような経歴情報を組み合わせるとどうなるか。その瞬間に、銀行の審査部よりもよっぽどリッチな情報が得られる。インターネットに転がっているわけですよ、しかもタダです。

もっと言えば、アマゾンが僕の購買履歴20年分を分析すれば、いったいどれぐらいのものを買っているか、いくらぐらいのものを毎月買えるかがわかる。銀行審査よりはるかに精緻なプロファイルを取れる。今のフィンテックブームは、ここに目を付けているわけです。仕事が脅かされるような産業はいっぱいある。

人間は、必ず機械を上回る価値を生み出すので、簡単に産業がなくなることはない。ただし大きく変わる。自動車メーカーも、ガソリン車を売っているだけで成り立つと考えている経営者がいたら、それはまずい。みな変化を見据えて新しい取り組みをしないと、アップルやグーグルに根こそぎやられてしまうかもしれない。

山田:アップルは実際に、「タイタン」プロジェクトを立ち上げていますね。「本当に自動車を作るのか」という驚きがあります。

伊佐山:自前といっても人材を引っこ抜くわけですね。たとえばテスラの人もかなりアップルに転籍しています。だから、自動車を作ろうというのは本気でしょう。既存の自動車メーカーは「200人引っこ抜いたってなにもできないよ」って反論するでしょうが、アップルは現金をいくら持っているか知っていますか。トヨタが買えてしまうくらいのキャッシュを持っているわけです。

山田:何もしなければ、これまでの自前の事業は根こそぎひっくり返ってしまう。

シリコンバレーを支社にしてはダメ

伊佐山:そうです。僕の感覚が間違っているのかもしれませんが、いよいよそういう状況になってきたな、と思っています。

山田:そんなシリコンバレーの最前線を押さえたうえで、仕事をするためにはどうすればいいのでしょうか。

伊佐山:今まではシリコンバレーや米国に拠点を置いたとしても、営業の拠点だった。今やっている日本中心のビジネスを地理的に広げるための拠点だったといえます。つねに従属する立場にあったと思います。

しかし、そうではなく本社機能のうち、新しいビジネスを生み出す拠点にする、という考えが必要です。つまり研究開発目線の進出です。これまでは日本の企業はどんな会社であっても、研究開発はあくまで国内だった。研究開発部門があったとしても、シリコンバレーは支社に過ぎなかった。シリコンバレーからは面白おかしい情報は入ってくるんだけど、実際は本社の人は真剣に相手にしない。

よく言うのですが、本社のほうにはキャッチャーがいない。シリコンバレーに駐在しているいいピッチャーが球を投げまくっても、壁に当たってそこらへんに落ちているだけ。駐在モデルはどうしてもそうなってしまう。そうならないようにするには、R&Dのヘッドクォーターをシリコンバレーに移してもいい、というくらいの考えで進出するべきです。

実際、そういう考えを持つ経営者も出てきている。つまり、社長もシリコンバレーには定期的に行かなきゃいけない。必要になったらシリコンバレーに引っ越したっていい。実際、ソフトバンクの孫さん、楽天の三木谷さん、LIXIL(リクシル)の藤森さん、ソニーの平井さんもシリコンバレーの住民に近い。これからそういう経営者も増えるかなとも思っています。

センスのいい経営者は、「いやもう俺、引っ越すよ」となるのではないかと思います。世界の標準をリードしている地域をもっと、経営で身近に感じることは、これからますます日本企業の課題になると考えていますし、WiLとしてはそういうニーズを取り込んで、活動の幅を広げていきたいと思っています。 
(記事引用)