若者の活動拠点『福島コトひらく』 場所がなくては起業もキツイ!
渡辺龍太 2015年08月07日 07:23

今年6月27日、福島県郡山市でコミュニティースペース「福島コトひらく」のオープニングセレモニーが行われました。この施設は十分な広さのある会議室、レンタルオフィス、さらには3Dプリンタなどのデジタル工房のような機能も備えた施設です。 
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利用料金も格安で、スピーチが行われている写真のような大きな会議室も会員になれば一時間1000円で借りることができるという優れモノです。この日のオープンセレモニーでは、郡山市長、日本財団理事長といった来賓によるスピーチや、地元の子供達による催し物などが行われ、とっても賑やかなイベントとなっていました。 

この施設を運営する特定非営利活動法人コースターは、2008年に法人を立ち上げた比較的若い団体です。今回、日本財団からの補助を受け、倉庫を改築し20~30代の人たちの活動拠点となるようなコミュニティスペースを作りました。今後、この施設を多様な人々のネットワーク形成やマッチングの場として育て、郡山のみならず、福島県の次世代を担う人材が育まれる場所を目指して運営していきたいと考えているそうです。 

こうした人材の交流を積極的に行っていける場所を「コワーキングスペース」といいます。様々な業種の若者が同じ建物内で仕事をしたり、オフィスをシェアしたりすることで交流が生まれます。そこで生まれた多様な人脈が元になり、他のビジネスにも発展していく可能性が高まるのではないかという考え方です。新たなビジネスが生まれる際には、安く集える場所→豊富なコミュニケーション→良いアイデアという流れになることも多いので、素晴らしい取り組みが始まったと感心しました。 

“場所”を提供することで起業のハードルが下がる

日本にも数多くのベンチャー企業がありますが、ベンチャーのメッカといえば、やはりアメリカ。要因には、アメリカの方がベンチャーを応援する投資家が大勢いる、世界中から優秀な人が集まってくるなど様々なものがあると思います。私は20代の頃、約4年間アメリカで暮らし、起業したアメリカ人とも知り合いになりました。その時にも感じたのですが、アメリカにベンチャー起業が多い理由の一つとして、「若者が集える十分な広さの場所が格安で手に入る」ということも大きいのではないかと思いました。 

例えば、アップルのスティーブ・ジョブズやデルコンピューターのマイケル・デルなど、多くのアメリカ企業の創業者は自宅のガレージや学生寮などで起業したと言われています。私の知り合いのおもちゃのネット通販をやっているアメリカ人も、同じように実家のガレージを使って場所代に一切お金をかけずに起業しました。 

その友人は仲間と共同で、3000~20000円くらいの子供向けおもちゃをネットで販売しています。3000円といっても、スケートボードのような大きさのおもちゃもあり、在庫を置いておくスペースもかなり必要です。しかし、彼の実家のガレージは広大で、車数台を余裕で停められるスペースがありました。なので、スペースを心配することなく在庫を抱えて、そこで一緒に創業した友人たち数人と楽しげに梱包や発送したり、会議をしたりしていました。 

創業メンバーでフルタイム勤務しているのは社長だけで、他のメンバーは日中、他の仕事を持っていました。そのため、最初の頃は昼間の仕事が終わるとメンバーがガレージにやってきて、そこでみんなで寝泊りしながら仕事をするというスタイルだったと聞きました。 

同じことを日本でやろうと思ったら、どうでしょうか。福島に一軒家の実家があったとしても、大量の在庫を抱えた状態で3~4人の大人が作業したり、寝泊り出来るようなスペースが建物内に余っていることは、なかなかないと思います。そうしたスペースを賃貸しようと思えば、毎月それなりの固定費がかかってしまいます。 

また、私の友人は「一人だけではおもちゃの通販サイトを大きく出来なかった」と語っていました。おもちゃに詳しい自分と、ウェブに詳しい友人など、それぞれ強みを持った人たちと始めたことが重要だったそうです。このように、別々の能力を持った若者が格安で集える場所が確保しにくいというのが、日米の起業ハードルの高さの違いにつながっているのではないか、と感じました。そのため、「福島コトひらく」のように、安くて若者が気軽に集まることができるコワーキングスペースが日本でも確保されれば、起業へのハードルも多少は低くなるのではないでしょうか。 

何故「福島コトひらく」の利用料は安いのか

「福島コトひらく」の施設利用料を、具体的に見てみましょう。まだ暫定の金額ということですが、コワーキング会員になれば月額1万円程度で机を確保できます。そして、月に5万8千円で写真にあるような広いオフィスが借りることができます。しかも、両方とも法人登記が可能。確かに、東京でも格安のコワーキングスペースはあるかもしれません。しかし、法人登記が出来て、周りも本気で腰を据えて起業を目指す仲間に囲まれるといった環境はなかなか手に入らないでしょう。 


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この広さのオフィスを東京で月額6万円以下で借りることはまず不可能です。敷金、礼金、保証金などが必要になってくるので、東京なら100万円以上必要になる可能性もあります。いくら、東京と比べて土地代が安い福島とはいえ、建物を建てる値段はそれほど変わらないでしょうから、この利用料は破格だと思います。

こうした固定費をセーブして、商品、広告、人件費にお金を回して事業をスタートすることができるというのは非常に魅力的だと思いました。 

では、この破格のシェアオフィスがなぜオープンできたのでしょうか。それは冒頭でも軽く触れたように、New Days基金と日本財団による建物に対する資金援助があったからです。New Day基金は、アート関連の事業を行っているカイカイキキという企業と芸術家の村上隆さんが、東日本大震災の復興支援を目的としたチャリティオークション「New Day - Artists for Japan」を開催し、その売上金を元に日本財団と協力して運営されている基金です。約3億4000万円もの資金があり、東北の未来を作るために使われています。 

この資金を元に、「福島コトひらく」を運営する特定非営利活動法人コースターに約4000万円程の資金援助が行われました。その結果、建物や3Dプリンタなどを導入しているのにもかかわらず、コースターの初期投資が極めて少ない形で施設をスタートすることが出来ました。コースターの方に伺うと、このような巨大な建物を運営するにもかかわらず、月額30〜50万円程度の売り上げがあれば十分にビジネスとして回していけるそうです。税金が一切投入されていない施設にも関わらず、格安で運営するコトが可能なのです。 

東京から1時間チョットで行ける福島

今までメリットにばかり言及してきましたが、「いや、ちょっと待て!建物がいくら安くて、3Dプリンタもあると言っても、起業するには都会から離れすぎているから、特殊なことしか出来ないんじゃないか・・・?」と思う人もいるかもしれません。しかし、今の時代、特にインターネットで商売をする場合、場所はほとんど関係ないと思います。そのため、大都市でなければ成り立たないビジネスでなければ、むしろ地代の安い地方で起業する方が良いと思われます。 

例えば、ネットで物販ビジネスを始める場合、オフィスや倉庫が不可欠です。むしろ、東京のオフィスで起業していても、節約のため地代の安い地方に倉庫を借りているという企業も多いでしょう。あるいは、コールセンター運営のようなビジネスも、どこで電話を受けても変わらないので土地代の安い地域で運営する会社も相当数にあると思います。 

会社が巨大化して、社員を大量に採用したいという場合は、大都会で採用しないと人集めが厳しいかもしれません。しかし、スタートアップなら、創業メンバーが「福島コトひらく」でやると決めれば何の問題もないはずです。再びアメリカの例を引き合いに出しますが、アメリカの起業の中心地はシリコンバレーです。シリコンバレーで作られて大きくなった会社が、後からサンフランシスコやロサンゼルス、そしてニューヨークなど大都会に進出していくという順序になっているのです。 

とはいえ、あまりにも大都会から離れすぎていると、不便なこともあるでしょう。作業を行うのは福島だとしても、営業すべき取引先の企業は東京にあるというケースもあると思います。そのため、大都会へのアクセスが絶望的に悪い所では立地が足をひっぱるということになってしまうでしょう。しかし、「福島コトひらく」は、その点もまったく問題がないように思えました。 

東京から見ると、埼玉、栃木があって福島となるので、新幹線を使ってもかなり遠いのではないか、と考えている人もいるでしょう。しかし、「福島コトひらく」は、福島県の中央あたりにある郡山市にあります。個人的に意外だったのですが、郡山駅までは東京駅から新幹線を使えば、たった1時間20分ほどで行けてしまうのです。もちろん普通の電車より料金は高めですが、1時間と少しという移動時間は、毎日通勤しているという方もいる時間でしかありません。そのため、「福島コトひらく」でビジネスを始めても東京へのアクセスには困ることはないのではないかと思いました。 

そして、「福島コトひらく」にとって都会は東京だけではありません。仙台という東北の大都市へもアクセスしやすい立地です。新幹線でたった30分ほどしかかかりません。東京や仙台で仕事を受注して、地代の安い郡山で作業するというのは起業には大変良い環境に思えました。 

また、この施設は新幹線の郡山駅から徒歩20分程度の場所にあります。郡山駅は、とても便利な場所に思えました。地方都市における新幹線の駅は、必ずしも街の中心地にある訳ではありませんが、郡山駅は周辺に大型ホテルや飲食店などの繁華街があり、大きなショッピングセンターやマンションもありました。東京都内でも田畑が残るような住宅街メインの街にある駅の周辺よりも、圧倒的に便利そうな印象を受けました。 

この街で起業するために生活をしたとしても、行動範囲は限られると思いますが、地方だからといって絶対に車を保有しなければならないような街ではなさそうでした。こうした環境も、起業の際のコストカットという意味では魅力的に見えました。 

税金を投入される街から納税する街へ

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冒頭、「福島コトひらく」のオープニングセレモニーを見学に行ったと書いてきましたが、写真を見て違和感を覚えた方もいるでしょう。実は、オープニングセレモニーとは言うものの、今回は施設案内という感じのイベントで「福島コトひらく」の本当のオープンはまだ少し先になるそうです。

というのも、震災以降、福島では特に建築関連の人手不足が深刻で、復興や除染関連のプロジェクトに県内の業者がかかり切りになってしまっている状態が続いているそうです。 

その上、最近は東京オリンピックを控えた東京へも建築人材流出が止まらず建物が計画通りに建てられない状態。さらに、このオープニングセレモニーで、日本財団の尾形武寿理事長も言及していましたが、福島では今でも20万人が仮設住宅で暮らしているそうです。 

こうした福島の現状を解決するのにも、「福島コトひらく」のような若者に場を与えるというプロジェクトが一番効果的なのではないかと私は思いました。なぜなら、公共事業で復興と言っていても、税金が投入されなくなった時点で雇用はなくなってしまいます。 

しかし、先ほど書いたように、ネットのお陰で人は場所を選ばずに仕事ができる時代になってきました。そして、IT技術は、人間の仕事をサポートして何倍にも生産性を高めるものです。これを地元の若者が上手く利用して起業し、それが徐々に大きくなっていった場合はどうでしょうか。うまくいけば、ベンチャー企業が生まれて、税金を投入されることで雇用が生まれていた街が、自ら雇用が生み出し税金を納める街という良いスパイラルになっていく可能性まで見えてきます。 

もちろん、若者に場を提供するというやり方では、税金を投入する事業のように、明確に何か結果を残すことを予測できません。なので、確かに不確定要素は多いでしょう。しかし、若者に場を提供することで、税金に頼らない何か新しいビジネスが生まれる可能性は高まると断言できるのではないでしょうか。ちょっと気長に構えなければなりませんが、今回、「福島コトひらく」を見学に行き、「場」を若者に提供することが、長期的に見れば強い街として福島が復興するきっかけになる可能性を秘めているのではないかと思いました。 
(取材協力:日本財団)