パナマ文書が公開された経緯とは?
ICIJに参加した朝日・奥山氏に聞く
THE PAGE2016年05月22日 15:00
「パナマ文書」によって世界的にその名が知られるようになった国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)。
この調査報道NPOはこれまでにも各国のジャーナリストと協力しながら、世界的規模のスキャンダルにスポットライトを当てている。
パナマ文書に関する調査報道では日本からもジャーナリストが参加している。その一人、朝日新聞の奥山俊宏編集委員に話を聞いた。
インタビューの前編は、パナマ文書に関する調査報道に奥山氏がどう携わったか、記事公開後の印象やこれからの課題について聞いた。後編では、米メディアの中で既に大きな存在となっている非営利の調査報道機関について、奥山氏のコメントを交えて紹介したい。(ジャーナリスト・仲野博文)

わずか数か月……タイトなスケジュール

 ICIJが世界各国のジャーナリストと連携しながら行ったパナマ文書に関する調査報道。日本から参加したジャーナリストの一人が、朝日新聞の特別報道部に在籍する編集委員の奥山俊宏氏だ。奥山氏は過去にもICIJの調査報道プロジェクトに参加しているが、ICIJのプロジェクトに参加するようになったきっかけは何だったのだろうか。

「ICIJの事務所に初めて行ったのが、2008年5月。当時の上司から『アメリカの非営利組織で調査報道をやっているという話を聞いたのだが、その実態について調べてきてほしい』という指示があったのと、別のテーマでの取材もあったため、2008年5月にアメリカに行きました。ニューヨークのプロパブリカや、ワシントンですとセンター・フォー・パブリック・インテグリティ(CPI)、サンディエゴのボイス・オブ・サンディエゴ。これらは今でもアクティブに活動している非営利の調査報道機関ですが、それぞれを訪ねて回りました。その過程でCPIを訪れた際に、CPI内で国際的な調査報道を担当するICIJの存在を聞き、その場で事務局長を紹介されたというのが始まりです」(奥山氏)

 パナマ文書に話を移そう。匿名の情報提供者から南ドイツ新聞にコンタクトがあったのが1年以上前。2.6テラバイトのデータがICIJに送られ、世界各国で400人近いジャーナリストも参加して、過去に前例のない大規模な調査報道が実施された。意外にも、ICIJ側から奥山氏に調査報道プロジェクトへの参加依頼が来たのは発表の数か月前だった。

「パナマに関するタックヘイブンの文書を入手したという話を聞いたのは、今年の1月です」

 過去にもICIJの調査報道プロジェクトに参加していた奥山氏だが、パナマ文書に関するプロジェクトは過去に携わったものよりも短期間での調査や取材を求められたのだという。再び奥山氏が語る。

「『ルクセンブルグ・リークス』のケースでは2014年11月に記事を出す半年以上前からやっていました。『オフショアリークス』の場合も2012年6月に最初の話を聞き、2012年9月に実際にICIJの事務所にファイルを取りに行って、記事が出たのが2013年4月でした。それに比べると、今回は1月に話を聞き、その時点で原稿解禁の日付も聞いていました」

 奥山氏は東日本大震災以降、福島第一原発事故に関する取材を継続して行っており、パナマ文書に関する国際的な調査報道プロジェクトへの参加は、時間との戦いでもあった。

「私は福島第一原発事故をテーマにした取材をこの5年間やってきていまして、2016年3月11日で震災から5年を迎えるということもあり、それに合わせて福島第一原発事故に関する特設面を作り、その取材班の中に入っていましたので、時間は非常にタイトでした」

パナマ文書はあくまで「氷山の一角」
 ICIJによってパナマ文書の内容が公にされたことにより、オフショア取引やタックスヘイブンの実態がより多くの人に知れ渡ることになったが、パナマ文書はあくまでもパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部資料による情報のみで、全てのタックスヘイブンの実態を明らかにしたものではない。奥山氏は語る。

「これは氷山の一角と言いますか、ほんの一端が明らかになったに過ぎないのだと思います。モサック・フォンセカは五本の指に入るとも言われていますが、何百とあるサービス・プロバイダー(タックスヘイブン法人の設立を扱う業者)の一つに過ぎないわけで、例えばケイマン諸島はここでは扱われていませんし、日本に支店やコネクションがあるというわけでもないですから、パナマ文書で見えたものが全体の縮図であるとは言えないと思います」
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 日本人や日本企業が頻繁に利用しているとされるケイマン諸島は、パナマ文書の中では「わずかに」数千しか記載されていない。英フィナンシャルタイムズは2日、オフショア取引に関する規制強化の動きが原因となって、2010年以降の世界のオフショア取引の中で英ヴァージン諸島やジブラルタルといったタックスヘイブンの利用が減少傾向にあると報道。同時に、ケイマン諸島やチャンネル諸島におけるオフショア取引は若干増加しているとも伝えている。

「3年前のオフショアリークスの時に、まさにオリンパスが使っていたファンドがあり、その時は少し記事にもしました。そのファンドはケイマンにありました。タックスヘイブンとして多くの日本人に利用されてきたのはケイマン諸島で、英ヴァージン諸島やパナマ文書に載っている他のタックスヘイブンよりも圧倒的に存在感が大きいので、(ケイマン諸島に関する情報が)なかったことが日本関連の情報が少なかった理由ではないでしょうか。3年前のオフショアリークスと比較して、今回は全体で10倍のデータ量がありますが、日本について言うと、3年前のオフショアリークスよりも若干少ないような印象を受けます」

 情報量の多さでも話題を集めたパナマ文書だが、奥山氏によると、今回は「使える資料」が多かったのだという。

「3年前のオフショアリークスの際は、当事者のパスポートの写しなどもあまりなく、いい資料がそれほど多くはありませんでした。今回は基本的にパスポートのスキャン画像などがあるので、人の特定はしやすかったです」

 パナマ文書ではモサック・フォンセカ経由でオフショア法人の設立を行った企業や個人の情報が公開さ、合法なルールの中でオフショア法人を設立した企業に対する風評被害を起こさないかという懸念を指摘する声もあるが、それに対して、奥山氏は今回の調査報道プロジェクトの趣旨を説明する。

「日本でも会社情報は基本的にネット上で検索が可能ですよね。有料ではあるものの、法務省の外郭団体のデータベースに行けば、役員の名前を全部ダウンロードできます。代表取締役については自宅住所も公開されています。それらと今回の公開(オフショア・リークス・データベースに法人やその株主の名前を掲載して公表したこと)は、株主や受益者が含まれているという点では異なりますが、基本的には会社の名前やその法人の背後にいる関係者が誰なのかを明らかにするものであるという点で似ています。(データベース上に公開された法人が)何か違法行為をやっているということを言おうとしているわけではありません。

 署名を偽造されたといった話も取材の中では出てきていますが、全く心当たりがないケースというのはありませんでした。(名前を使われた人が)『この人に使われた』と心当たりのあるケースはあっても、全く無関係の人が名前を勝手に使われたというケースは取材の中では見当たりませんでした」
(注筆者、一部この件に関して心当たりがない、と否定した人物もテレビで報道されたが、そのことと、この記事はそれわ否定しているということか?)  

 世界的に大きなニュースとなったパナマ文書。奥山氏はICIJが4月に行ったパナマ文書の公開が、日本でどれだけ大きなニュースになるのか、公開直後は測り知ることができなかったが、ネット上での動きを見て大きなニュースになると確信したのだという。

「人口33万のアイスランドの首相に疑惑があるとしても、それが日本で大きなニュースになるかどうかはよく分かりませんでした。(パナマ文書の公開前に)過去に朝日新聞の紙面にアイスランド首相の名前がどのように載っているか調べるため、記事データベースで検索をかけても、東京の紙面では1回しか記事になっていませんでしたから。記事が出た翌日の深夜に、アイスランド首相辞任のニュースが流れ、これについて、すごい勢いでツイートされているのを見て、これはただ事ではないなと感じました」
(記事引用)