石破茂氏が期待を寄せる「鳥取県八頭町」の可能性
「一番いろんなことが遅れていたがゆえに、フロントランナーたりうる地域だ」
2016.10.26

安倍政権が「地方創生」を掲げて早2年。過疎化などに直面する地方を再び盛り上げるべく、各地の自治体が観光振興や移住定住促進、商品開発といった地方活性化のための様々な施策を打ち出している。

そのような中、近年注目を集めているのが鳥取県東南部に位置する八頭町(やずちょう)だ。新たな産業と雇用を創出するべく、ドローンの研究開発や実証拠点づくり、若者が農業や林業とITの仕事を兼業できる働き方の提案など「新しいことが始められる町」のイメージを打ち出している。(文:伊藤綾)

地域の持ち味を発見し、いかなる役割を果たしていくか

鳥取市に接し山々に囲まれた八頭町は、町の中心を流れる八東川(はっとうがわ)流域での稲作や果樹栽培が盛んに行われ、伝統芸能の「麒麟獅子舞」(きりんししまい)や歴史ある寺院も数多く残る地域だ。


特設サイト「八頭イノベーション」のトップデザイン

町はこの10月に八頭町の情報を発信するための特設サイトを開設。トップページには「これからの日本のことをやっています。」というスローガンが掲げられている。将来の日本が突き当たる社会的課題について、この地域が先んじて取り組んでいるという自負が感じられる。

スズキのバイク「隼」が集結する隼駅

サイトでは、全国のライダーの聖地として知られる若桜(わかさ)鉄道の隼駅をはじめとした話題のスポットや、様々な分野で時代を切り開いてきたイノベーターを動画で紹介。旧態依然とした働き方に疑問や閉塞感を感じている若い世代など、移住に高い関心を持つ人たちに向けてメッセージを発信している。

インタビューには、同町出身の石破茂・前地方創生担当相も登場。石破氏は、八頭町の人たちが当たり前だと思っていることが、都会の人から見ると「ものすごく新鮮なことがいっぱいある」と指摘し、地域創生のあり方をこう述べている。

「人口減少社会という経済成長が望めない社会にあっては、それぞれの地域がそれぞれの地域の持ち味、アイデンティティを発見して、いかなる役割を果たしていくかということを、その地域に住む人たちが自覚をすることが大事だと思うんですよね」



ドローンや自動運転の実証実験で「日本を変える取り組み」

八頭町は、日本が直面している働き方の問題や過疎化・少子高齢化といった課題に対し、知恵と工夫とテクノロジーの活用による「イノベーティブ発想」で取り組んでいるという。

廃校となる小学校などの空き施設を、サテライトオフィスや起業家の事務所として活用。IT企業の誘致にも力を入れる。今年5月にはソフトバンクのグループ会社のSBドライブ(株)と組み、自動運転の実証実験を行うことを発表した。2020年までに町営バス路線などでの無人自動運転サービス開始を目標に掲げている。先進的な取り組みに、石破氏も高い評価を与える。

「山深いところであっても、最先端の技術を使うことによって都市部となんら遜色のない生活ができる。八頭町で(小型無人ヘリの)ドローンや自動運転のテストが始まるというのは、ある意味、日本を変える取り組みになると思います」

石破氏はまた先端科学技術のほか、食や医療・介護といった分野を、日本がこれから特に力を入れて伸ばしていかなければならない重点分野として挙げたうえで、「八頭町は高齢者たちが元気で働け、みんなで助け合える新しいシニアの生き方を深めていくべきだ」と述べている。

キーワードは「今だけ、ここだけ、あなただけ」

東京圏の一極集中の傾向はいまだに強いが、その一方では若者や家族単位での地方移住も増えている。人口減少のイメージが強い鳥取県でも、県外からの移住者の数は2009年から2014年までの6年間の累計で4000人を超えたという共同調査(NHK・毎日新聞・明治大学)もある。
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石破氏は「一番いろんなことが遅れていたがゆえに、フロントランナーたりうる地域」と八頭町に期待を寄せつつ、他の地域にはないイノベーティブな取り組みを大切にしなければならないと強調する。

「キーワードは”今だけ、ここだけ、あなただけ”ということ。そこにあるものが、そこにいる人々が、やって来る人に『今だけですよ』『あなただけにですよ』、そして『ここだけにあるものですよ』というものを提供できるかだと思うんですね」

人口減少による社会に与える影響について、巷には悲観的な声も多い。しかし量から質への価値観の転換や、テクノロジーの活用によって、その弊害を軽減する道もあるだろう。地方において新しい産業を興し、テクノロジーによる町おこしを進める八頭町に今後も注目したい。

ウェブサイト:八頭イノベーション

(記事引用)