トランプ政権を操る「謎のブロガー」 28歳の異常すぎる存在感
2017年1月22日 18時0分 Forbes JAPAN
「ネット上で最も嫌われている人物」と呼ばれ、荒らし行為でツイッターからアカウント使用停止処分を受けたブロガー、チャールズ・チャック・ジョンソンが、トランプ大統領の政権移行チームとの連携を深めている。

情報筋によると、彼はトランプ政権のチーム編成に協力し、候補者の吟味や「オルタナ右翼」と呼ばれる陣営からの承認を得る活動をしているという。自称「不正を暴くジャーナリスト兼作家」のジョンソンは現在28歳。彼は大統領選挙の数か月前からソーシャルメディアや自身が運営するニュースサイト「GotNews.com」上でトランプの応援を繰り広げ、トランプを批判する人々に向けては虚偽の情報を流した。そのジョンソンが、この国の運営を担うリーダーたちの選出に一役買っているというのだから驚きだ。

フォーブスは、政権移行チームの関係者から匿名を条件に、ジョンソンが関与している事実を突き止めた。先月、ジョンソンに意見を求めたところ、彼は「公式な肩書はない」と述べるにとどまり、具体的な関与についてはコメントを避けた。昨年12月の段階では、電話やメールでのインタビューに応じるとしていたが、今月に入ってコンタクトをしたところ、コメントを拒否した。

ジョンソンは昨年末に行ったメールでのインタビューで、次のように述べている。「トランプ政権の誕生についてはとても嬉しく思っているが、私が希望する人材の多くは政権メンバーに選ばれていない」

ジョンソンは、12月22日のラジオ番組にリバタリアンのブロガー、Stefan Molyneux と出演し、「トランプ政権のために多くの人物の精査を行っている」と述べている。彼は「Black Lives Matter Movement(黒人の命だって大切だ運動)」の活動家を脅したために、2015年5月にツイッターからアカウント使用禁止処分を受けている。

「オルタナ右翼」から絶大な支持
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その後も他人を誹謗中傷したり、虚偽の情報を流してネット上の「荒らし」としてその名が知られるようになった。彼は、ニューヨーク・タイムズの記者の住所を公開したり、バージニア大学で起きたレイプ事件の被害者として関係の無い女性の名前を公開したり、オバマ大統領が同性愛者であると公言するなど、これまでに多くの物議を醸してきた。

2014年のマザー・ジョーンズ誌とのインタビューで、ジョンソンは自身について次のように語っている。「ツイッターに投稿するとき、私はまるで別人格のように好戦的になる。それは、スパイダーマンがコスチュームを着ると穏やかなカメラマンから豹変するのと似ている。私は、自分が発信したコンテンツを拡散させるために、あえてそのようにしているのだ」

ジョンソンは、自身が運営するGotNewsを「嘘だらけの主要メディア」に対抗するものだとしている。彼によると、月間ページビュー数は250万に達するというが、ネット視聴率調査のQuantcastは過去30日間で24万6,000人が同サイトを訪れたと推計している。サイトを見ると、テッド・クルーズ上院議員が連邦最高裁判事の指名間近であることや、トランプが2016年の上院議員選でジョン・マケインを支持したことを「最大の後悔」と述べているといった記事が掲載されている。

白人至上主義団体とも交流

ジョンソンは最近、ワシントンD.C.で白人至上主義者の集会に参加している姿が目撃されている。彼は問題行動を数多く起こしているが、オルタナ右翼勢力から絶大な支持を得ている。彼らは、大統領選挙でトランプ勝利に大きく貢献したと言われている。

ジョンソンの友人で、同じくトランプ支持派の「荒らし」として知られるMike Cernovichによると、ジョンソンはこれまでも水面下で政治活動を行ってきたという。「メディアはジョンソンを批判するが、彼が政治にどれだけ大きな影響を及ぼしてきたかを知ったら驚愕するだろう」と彼は話す。

ジョンソンはいち早くトランプの勝利を予測し、大統領選挙のパーティー会場ではVIP席にいる姿が目撃されている。彼は11月8日頃からトランプタワーに陣取る政権移行チームと連携し、ティールをはじめとする執行チームのメンバーと連絡を取り始めた。ペイパルの共同創業者でフェイスブックの取締役でもあるティールは、シリコンバレー人脈とトランプをつなぐ上で極めて重要な役割を果たしている。

ジョンソンは、トランプ政権の人事において、10名以上の候補者をティールに紹介している。その中には、連邦通信委員会(FCC)の委員長候補であるAjit Paiが含まれる。FCCの共和党系委員であるPaiが委員長候補に名が挙がるのは自然な成り行きだが、ジョンソンが推薦したということは、オルタナ右翼勢力もPaiが適任だと考えていることがわかる。Paiにコメントを求めたが、回答を得ることはできなかった。

ジョンソンは「ピーター・ティールとは共通の敵がいるが、面識はほとんどない」としてティールとの関係を否定した。彼の言う共通の敵とは、ティールが廃業に追い込んだゴーカー・メディアのことだ。ゴーカー・メディアは、元プロレスラーのハルク・ホーガンからプライバシー侵害で訴えられ、巨額の損害賠償によって破産に追い込まれた。

ティールは、ホーガンの裁判費用を密かに支援していたとされる。ジョンソンも、中傷記事を掲載されたとしてゴーカー・メディアを名誉棄損で訴えているが、ジョンソンが最初に相談を持ち掛けたのが、ティールがホーガンの裁判で使った弁護士事務所「Harder Mirell & Abrams」だった。その後、ロサンゼルスの弁護士事務所が引き継ぎ、現在はゴーカー・メディアの破産を受けて裁判は中断している。

保守系ニュースサイトに勤務の過去も

ゴーカー・メディアがジョンソンとティールの共通の敵だとしたら、両者にとっての共通の味方はトランプのアドバイザーで首席戦略官のスティーブン・バノンだろう。バノンは、ジョンソンがかつて勤めた保守系ニュースサイト「ブライトバート・ニュース(Breitbart News)」の会長だった人物だ。昨年12月の電話インタビューで、ジョンソンはバノンについて、「私はバノンの近くで働き、彼を尊敬している」と述べている。

ジョンソンとバノンは、昨年10月に行われた2回目の大統領選討論会の直前に、ビル・クリントン元大統領を性的暴行で訴えた女性4人とトランプによる記者会見を開催した。被害者とされる女性の一人、キャサリン・シェルトンは、1975年にビル・クリントンからレイプされたと主張しているが、ジョンソンは彼女のために1万ドル以上の寄付を集めている。

ジョンソンは先月、フォーブスに対して次のように述べている。「自分の元上司が米国大統領の相談役になったら、気安く間違いを指摘できなくなる」。バノンの広報担当であるAlexandra Preateにコメントを求めたが、回答を得ることはできなかった。

最近では、ジョンソンの友人であるMike CernovichとJeff Gieseaも政権移行チームと面談していることが確認された。この2名はトランプの大統領就任式の夜にワシントンD.C.の全米記者クラブで行われる「DeploraBall」と銘打った支持者向けパーティーを企画し、これまでに1,000枚のチケットを販売している。このパーティーの目的は「トランプの大統領選勝利まで政治的に無視されてきた人々に発言権を与える」ことだという。ジョンソンに、これまでの活動に対する功績をトランプ側から認められているかと尋ねると「私が期待しているほどは認められていない」という答えだった。

ジョンソンは、トランプ支持活動が大きな成果を挙げた要因は、ミーム(インターネット上で爆発的に拡散する単語や顔文字、画像など)によって多くの有権者の感情に訴えることができたことだと分析している。「ペペ・ザ・フロッグ(Pepe the Frog)」というカエルのキャラクターがトランプ支持者の非公式マスコットとなったことなどが良い例だ。ジョンソンは、最近の人々はミームを使い、感情に基づいて政治的主張を行うようになっていると指摘する。実際、ジョンソンらが拡散した事実に基づかない情報に多くの人が反応し、トランプ勝利の大きな流れを作った。

「大統領選の勝因は、多くの人がミームを生み出したことだ。ミームによって新しい大統領が誕生したのだ」とジョンソンは話す。
(記事引用)