性格は「腸内細菌」によって決まる:研究結果
2015.5.1 FRI  wired 
腸内細菌と脳内で起きる行動パターンとの間には、明らかな相関があるようだ。マウスでは、細菌の移植によって「性格」が変わるという実験結果もある。
5540472468_26d489efaa_z


腸内細菌は、脳に大きな影響を与えている可能性がある。動物を使ったいくつかの研究で、腸内細菌の状況と脳内で起きる現象との間に、明らかな相関があることが示唆されている。
神経科学と解剖学を専門とするユニヴァーシティ・カレッジ・コーク(アイルランド国立大学のひとつ)のジョン・F・クライアン教授によれば、そのような相関を示す研究は、近年ますます説得力を増しているという。

クライアン教授は、UK版『WIRED』が4月に開催した「WIRED Health 2015」で、次のように説明した。「ある種の腸内細菌は、精神状態によい影響を及ぼす可能性があります。ストレスに対して体が適切な反応をとるために、そうした細菌が必要なのです」

最近行われたいくつかの研究では、そのような細菌を動物に投与すると、不安やストレスへの対応力が向上することがわかったという。「(細菌を投与された動物は)落ち着きが増し、よりリラックスするようになりました。脳を調べたところ、広範囲にわたって変化が見られました」

こうした特殊な細菌には名前もある。「サイコ・バイオティクス」というものだ。「ほかのほとんどの細菌は、脳の機能に対するよい影響はもたないでしょう」
腸内細菌が性格を決める
クライアン教授によれば、マウスを使った研究では、腸内細菌が行動にまで影響を与える場合があることがわかっている。例えば、腸内細菌をまったくもたないように繁殖させたマウスは、通常の腸内細菌をもつマウスと比べて非社会的な行動が多くなり、ほかのマウスと過ごす時間が少なくなるという。

同様の影響は、動物の糞を別の個体に移植して腸内細菌を移す「糞便移植」を行ったケースでも見られている。不安傾向の強いマウスに大胆な性格のマウスの糞便微生物を移植したところ、移植されたマウスはより社交的な行動をとるようになったことが確認されたそうだ。
さらにクライアン教授は、研究はまだ初期段階だと念押ししたうえで、ヒトの脳画像を用いた研究によれば、動物実験で確認された腸内細菌の効果の一部が、ヒトでも発揮されるかもしれないと述べた。

「こうしたことがヒトでも確認されたとしたら、その影響は非常に大きいものです」とクライアン教授は言う。われわれは治療のためにこれまで細菌を殺してきたが、細菌は、身体と精神の健康のために不可欠な存在であることがわかりつつあるのだ。
“Lifeless Face #022” BY Nottsexminer (CC:BY-NC-SA) 画像

日本人の腸だけに存在? 海藻を消化する細菌(関連記事)
wired 2010.4.9 FRI
日本人の腸だけに存在?:海藻を消化する細菌
フランスの研究者が、藻細胞壁の分解を専門とする酵素を特定した。この酵素を生成する細菌の菌株は、日本人の腸にしかいないらしい。

海洋細菌の中で、藻細胞壁の分解を行なう酵素を特定した」とフランスのStation Biologique de Roscoff(ロスコフ海洋生物研究所)の生物学者、Mirjam Czjzek氏は述べている。「この酵素が見つかる他の場所は1つしかない。それは日本人の腸に見られる細菌の中だ」
科学雑誌『Nature』の4月7日号に掲載されたこの発見は、Roscoff研究所の生物学者Jan-Hendrik Hehemann氏によるZobellia galactanivorans(ゾベリア・ガラクタニボランス:一般的な海洋細菌)の分析から始まったものだ。この研究の中でHehemann氏は、ポルフィランを分解する酵素を見つけた。ポルフィランとは、紅藻類の細胞壁で見つかった炭水化物だ。
この酵素をコード化する遺伝子は、他の場所で発見されていた――人間の腸で見つかった微生物、Bacteroides plebeius(バクテロイデス・プレビウス)のゲノムだ。だが、すべてのB. plebeius菌株が、藻を分解する酵素を生成するわけではない。そういった菌株は、日本人にしか見つかっていないのだ。
研究者たちによると、この酵素はZ. galactanivoransが紅藻類を食べるのを助けるという。紅藻類の中で西洋人にとって最もなじみが深いのは、巻き寿司の周りに巻かれている海苔だろう。[紅藻類は、セルロースと厚いゲル状多糖からなる細胞壁を持っており、これが海苔や寒天など、紅藻から作られる製品の原料となっている]
日本人の過去において、どこかの時点の誰かの腸で、この酵素をコード化する遺伝子が、Z. galactanivoransからB. plebeiusに入り込んだのだ。この幸運なB. plebeiusは、紅藻類を処理するという新しく得た能力を活用して腸環境に広がり、最終的には日本人の集団に広がって、彼らの海藻をたくさん食べる食事習慣から、さらに多くの栄養を得るようになったのだろう。
人間の腸内には無数の細菌がいて、彼らが生み出す消化酵素の利点を人間は得ていることは知られているが、「このような民族的な違いを示した研究はこれまでにないと思う」と、Emory大学の免疫学者Andrew Gewirtz氏は語っている。
ただし、この研究は18人の北米人しか対象にしていない[日本人では13人のうち5人がこうした腸内細菌を持っていたが、18人の北米人は持っていなかったという]。この腸内細菌が人の海藻の消化にどれほどの影響を与えているかについては測定されていない。また、海藻を食べない人の中でこの細菌がどうなるかについてもわかっていない。
「2年前から寿司を食べるようになったが、自分もこの酵素を持っているのだろうか、とよく聞かれる。その答えは、その可能性は非常に低いというものだ」と、Czjzek氏は語る。「昔は海藻は殺菌されていなかった。現代では海藻は、火を使って準備され料理されるので、こういった移転が起こる可能性はかなり低い」
この論文に対するコメントを書いたスタンフォード大学の微生物学者、Justin Sonnenburg氏は、「現代の先進国では、非常に衛生的になり、大量生産され、加工度が上がり、カロリーも高い食品を食べている。これは、環境における腸内細菌の遺伝子プールが減少するなかで、個々人の腸内細菌群がどれだけ適応できるかをテストしているようなものだ」と述べている。
一方で、食事がグローバル化したことによって、人々は、それまで食べていなかったような食物を食べる機会を得ている。「次に知らない物を口にするときは、一緒に摂取するかもしれない微生物のことを考えてほしい。最も親しい10兆の友人[腸内細菌]の1人に、新しい食器を提供することになるかもしれない」とSonnenburg氏は述べている。

wired参考論文: “Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota.” By Jan-Hendrik Hehemann, Gaelle Correc, Tristan Barbeyron, William Helbert, Mirjam Czjzek, & Gurvan Michel. Nature, Vol. 464 No. 7290, April 8, 2010. “Genetic pot luck.” By Justin L. Sonnenburg. Nature, Vol. 464 No. 7290, April 8, 2010.













    外部リンク http://www13.plala.or.jp/corakira/